現代的スパイスで古民家の良さを引き立たせる富士屋 花筏

  • 【外観】街並みに融け込むように古民家の周囲にあった塀を取り払い、コーナーを開放したオープンなしつらえとしました。オープンテラスも備え、明るく入りやすい店構えとなっています。
  • 【アプローチ】松に誘われるアプローチには、路地の風情を醸し出す石畳の小径を設け、異空間への期待感を高めています。入り口にかけられたのれんも粋な町家の商家の雰囲気を伝え、店舗内への好奇心を誘う小道具となっています。
  • 【ランドスケープ】改修前は目立たなかった2本の松をこの土地のシンボルとして、また町家の名残の「見越しの松」として活かし、古民家の風情と教訓をランドスケープにも残しました。新たに植栽した樹木は建物の高さに合わせ、塀の代わりにほどよいスクリーンとなり、また、街の景観へも貢献しています。ランドスケープは稲田純一氏担当。
  • 【店内】店舗内からは外のランドスケープが絵画のように切り取られ、ランドスケープとの一体感が店舗内からも感じられる仕掛けとなっています。また、外の空間と重なり合うことで店舗空間に奥行きと開放感がもたらされました。ランドスケープは稲田純一氏担当。
  • 【店内】和菓子が主役であることを意識し、空間にはそれを引き立てる黒子の要素をもたせ、白の陰影や素のままの色感を基調にしました。エンツォ・マーリ氏デザインの杉の家具のシャープで繊細な表情が、甘味処に現代的で新鮮なイメージをもたらしています。杉の家具は飛騨産業(株)担当。
  • 【土蔵内】古い土蔵を修復し、談話室に改修しました。左官職人の挟土秀平氏による土蔵内の土壁と入り口扉の斬新なデザインが、暗く閉ざされた土蔵のイメージを一新しています。また、エンツォ・マーリ氏デザインの杉の家具に合わせ、床材に国産杉を使用したことで、冷たい土蔵のイメージが払拭され、柔らかで暖かい雰囲気を醸成しています。土壁は挟土秀平氏、杉の家具は飛騨産業(株)担当。

花筏は、高山市にある町家造りの古民家を、甘味処を併設した和菓子店に改築しながらも、築100年の町家の風情を残したものです。空き家となったまま使われなくなった古い町家は、高山市内にも数多く存在するなかで、花筏は町家の改修と現代的活用例の一つの好事例となっています。

土壁は左官職人の挟土秀平氏、ランドスケープは稲田純一氏、杉の家具は飛騨産業(エンツォ・マーリ氏デザイン)、ガラス素材は辻井硝子建材(株)、等とのコラボレーションが現代的スパイスとして古民家の良さを引き立てています。

「JIA日本建築家協会優秀建築選2007」受賞(2007年)
高山市景観デザイン賞 「緑のある修景の部」優秀賞、「建築物の部」奨励賞受賞(2007年)

建設主 岡田賛三
延べ面積 母屋160m2、土蔵50m2
構造・規模 木造2階建て、母屋160m2、土蔵50m2
竣工 平成18年8月
撮影 XIU企画・辻井硝子建材(株)

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他業種との連携が現代的スパイスに

「富士屋 花筏」の改修にあたり、土壁は左官職人の挟土秀平氏、ランドスケープは稲田純一氏、杉の家具は飛騨産業(株)(エンツォ・マーリ氏デザイン)、ガラス素材は辻井硝子建材(株)、等と連携し、プロジェクトを組みました。従来の建築プロセスの枠を越えたこれらのコラボレーションは、築100年の町家に斬新な息吹を吹き込み、現代的スパイスとして古民家の良さを引き立てています。

改修にあたって

空き家となったまま使われなくなった町家は、高山市内にも数多く存在し、特に中心市街地では商店街のシャッター化につながり、問題となっています。改築される場合でも新建材による建築となってしまうことが多く、街並み形成上も憂慮すべき事態に陥っています。
「富士屋 花筏」は築100年の町家の風情をできる限り残しながらも、現代的な店舗としての実用性を追求したものです。
改修前は黒い塀に囲まれた暗く閉ざされた空間が、緑そよぐ明るく開放的な店舗に生まれ変わることで、街の景観にも貢献しています。
1階奥にあった土蔵も、古い土蔵の雰囲気を残しつつ、モダンな談話室に一新されました。