自然に譲るという精神哲学を実現できる場として奥飛騨温泉郷・平湯温泉もずも

  • 【アプローチ】天の岩戸をイメージしたアプローチは、大きな自然石の壁をぬけると人間の世界から“森の神”の世界への入り口となるよう、あたかも人間界との結界が施されているかのような仕掛けになっています。足元には、如何にも昔、大きな屋敷がそこにあり、その屋敷の延石が一部残っているような古ぼけた敷石を敷き詰めることで、人工的な印象をぼかしています。ランドスケープは稲田純一氏担当。
  • 【玄関】玄関に向かう階段には京都から運んだ古石を使いました。周囲の既存の樹木に合わせた自然流のレイアウトとし、幅も膨れたり縮んだりさせて、人間が少し不便をしてもよいという謙虚さを表現しています。ランドスケープは稲田純一氏担当。
  • 【玄関】雪景色
  • 【玄関】初夏
  • 【ロビー&テラス】庭の景観と一体化したかのような開放的な空間構成により、室内にいながらにして大自然の移ろいが味わえる、清々しく爽やかなロビーとなりました。自然素材をベースにした和風のしつらえのなかに、エンツォ・マーリ氏デザインの杉の家具が空間に現代的表情を与えています。ふんわりと灯る照明が神の宿る場としてのイメージを醸し出しています。杉の家具は飛騨産業(株)担当。
  • 【ロビー&テラス】
  • 【フロント】
  • 【ロビー】
  • 【渡り廊下】左右に開放された長い渡り廊下は、森の中を通り抜けていくような錯覚に陥らせ、客室へ向かうまでのプロローグとして、非日常への期待感を高めています。渡り廊下の周囲には、原生林に合わせて、四季折々、時々刻々に移ろう自然の景観が楽しめるランドスケープが施されています。ランドスケープは稲田純一氏担当。
  • 【客室】わずか10室に厳選した客室は、自然の中で過ごす静かな休日を実現するために、自然素材による和モダンをコンセプトにした落ち着きある空間としました。客室から眺める自然の景観を際立たせた控えめなしつらえのなかで、エンツォ・マーリ氏デザインの杉の家具がアクセントとなっています。杉の家具は飛騨産業(株)担当。
  • 【客室】
  • 【客室(浴室)】屋外露天風呂の醍醐味がプライベートな空間でゆったりと堪能できるように、各客室には、庭に面して露天風呂感覚の浴室を備え付けました。ガラスの扉を閉めれば、冬季には雪景色を眺めながらの入浴が楽しめるように、雪深い当地への配慮が施されています。
  • 【客室(浴室)】
  • 【食事処】時々刻々移り変わる自然の景色を一幅の絵画のように切り取り、インテリアの中心に配置しました。照明の明るさを落とした空間に浮かび上がる折々の風景は、旅の宿の食事に彩りを添え、思い出深い時間を演出するでしょう。杉の家具は飛騨産業(株)担当。
  • 【食事処】雪景色
  • 【露天風呂】屋外の露天風呂は、男女の陰陽を意味して凹凸の形状をした陰陽風呂となっています。浴槽の周囲を自然石で仕上げた素朴感のある露天風呂には、木立の緑や月明かりが映り込みます。大自然の息吹を感じながら心身ともにリフレッシュできる、日常を忘れた時空間を創出しています。

奥飛騨温泉郷・平湯温泉『もずも』は、奥飛騨の原生林の自然環境をできるだけ破壊しないような配慮のもとに、建物とランドスケープを設計した全10室の温泉宿です。建物の建築工事を行う際には、現況表土の植栽種保護のために、表土をすき取って移植したり、また、工事によって影響を受ける可能性のある樹木には、事前に保護措置をする等、最大限現況を損なわない努力をしています。

「もずも」とは、乗鞍岳より流れる毛受母川に由来し、その昔、神々が出雲への往還の際、旅の疲れを癒した清流と伝えられています。その伝説を踏まえ、森の幽玄さと神秘さを基調とした稲田純一氏によるランドスケープにより、四季折々、時々刻々の景観が楽しめる自然美溢れる旅の宿は、“自然に譲る”という精神哲学を実現できる場ともなりました。

「JIA日本建築家協会優秀建築選2007」受賞(2007年)

延べ面積 1,186m2
構造・規模 木造平屋建て
竣工 平成18年4月
撮影 XIU企画
施設HP http://www.mozumo.com/

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うつろう時といのちのランドスケープデザイン(稲田純一)

2016.11.14
ヴィム・ヴェンダースは旅について、ある雑誌のインタビューに答えている。

”もずも”は、岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯にある、旅人のための宿である。
敷地を初めて訪れて感じたのは、土地に宿る”時”であった。平湯の外れの毛受母川の畔にあって、落葉松の林に同居してシラビソの古木が何本も立っているではないか。こんなに胸がドキドキするほどの感動は、学生時代に穂高を縦走して以来である。